再会の日

第7話 「光の中へ」



砂沙美と魎皇鬼は、しばらくの間、見つめあったまま話すことも動くこともなかった。
ただ、時間だけが静かに過ぎていく。
それは、ほんの一瞬であったかもしれないし、永遠かもしれなかった。
どちらにしても、魎皇鬼にとっては耐え難い時間であったことは間違いない。
いつも一緒にいて、離れることが信じられなかったあの日以来、魎皇鬼は、ただ砂沙  
美の笑顔だけを心の支えにして今日まできた。
それが、今、その砂沙美その人によって、否定されようとしている。今日までの、そ  
して、これからの魎皇鬼のすべてを、目の前に入る砂沙美が否定しようとしているの  
だ。
「砂沙美ちゃん…………」
魎皇鬼は、全精力を振り絞って、ようやくこの一言を言うことが出来た。
しかし。
「来ないで……………」
決定的な一言だった。
生気のない、砂沙美の赤い瞳が、魎皇鬼の胸をえぐる。
魎皇鬼の中で、砂沙美との思い出が、うれしいことや、悲しいこと、楽しいことやつ  
らいこと、その他すべての思い出が、がらがらと、大きな、とてつもなく大きな音を  
立てて崩壊していくのを、魎皇鬼は感じていた。
もう一人の魎皇鬼が、砂沙美の肩を抱いて、魎皇鬼から更に離れるように、奥の方へ  
歩き出した。
まるで、砂沙美は自分のものだと言いたげな態度であった。
「ま、待って、砂沙美ちゃん!」
魎皇鬼は必死に砂沙美を呼びとめる。
しかし、砂沙美は振り向きもしない。
それどころか、もう一人の魎皇鬼に頭を預けて、より一層彼に密着した。
「砂沙美ちゃ――――――んっ!!」
魎皇鬼の叫びもむなしく、寄り添った二人は、再び暗い空間に取り込まれようとして  
いた。
そのとき。
“魎ちゃん、魎ちゃん!助けて!砂沙美が消えちゃう!!いなくなっちゃうよお!!”
「!!!!」
魎皇鬼は、確かに砂沙美の声を聞いた。
それと同時に、魎皇鬼の脳裏に、明確なビジョンが現れた。
目の前にいる砂沙美と同じ、海の星小学校の制服姿の砂沙美が、不安げに周囲を見回  
している。
砂沙美の周囲は、真っ暗闇である。
しかも、その闇は、一層深みを増して砂沙美を包み込もうとしている。
今や光っているのは、砂沙美自身と、砂沙美の周囲のほんのわずかな空間だけだ。
小さな、今にも消え入りそうな、とても小さな光のかけら。それは、周囲の闇に必死  
に抵抗するかのように、自らを光らせようとしていた。
しかし、それも徐々に限界に近づいていた。
光は、その輝きを次第に失い、やがて、砂沙美自身の輝きも鈍り始めた。
そして、砂沙美の足が、すうっと暗くなり始めた。
それを見た砂沙美は、恐怖の色をあらわにした。
“助けて!助けて!魎ちゃん!恐いよ!!早く!早く砂沙美のところへ来てええっ!!”
「―――――――――!!!」
と、そこまでで急にビジョンが途切れた。
我に返った魎皇鬼は、改めて自分の視界の中に何があるのかを確かめた。
寄り添いながら暗闇に消えていこうとする、もう一人の自分と、砂沙美。
「いや、あそこにいるのは、僕じゃない、そして、砂沙美ちゃんじゃない」
「砂沙美ちゃんが、自分が消えることなんか望んでるわけがない、あれは、砂沙美ち  
ゃんの、心の闇…………!」
魎皇鬼は、なにかに気がつき始めていた。
「…………よし!やってみる!」
魎皇鬼は、右手に意識を集中して、そこから光の剣を生み出した。
肉体の修行中に偶然身につけた、サイコ・ブレードである。
ヴン!
鈍い音をさせて、サイコ・ブレードを両手で構えると、魎皇鬼は消えゆく二人めがけ  
て突進した。
「やあああああああああっ!!!」
二人の背後から猛烈な勢いで走ってきた魎皇鬼は、結界に阻まれることを覚悟で、そ  
のままサイコ・ブレードをもう一人の魎皇鬼の背中に突き刺そうとした。
ばちっ!!じゅんっ!!
案の定、魎皇鬼の突き出したサイコ・ブレードは、結界に阻まれてもう一人の魎皇鬼  
に届かなかったものの、結界との共鳴現象を起こして、結界に突き刺さったままとな  
った。
結界も、サイコ・ブレードも、極論すれば精神力が生み出した疑似物質である。それ  
らが互いにふれあえば、まったく同じ精神力の持ち主同志であった場合、自己と同じ  
性質を持つものだが、しかし、自己と異なる物質でもあるため互いを受け入れる一方  
で、互いを拒絶しあうという、矛盾した現象が起きる。
それが、共鳴現象となって、両者譲らぬ状態となるのだ。
魎皇鬼は、それをねらっていた。
こうして足止めしておけば、少なくとも、これ以上二人が消えていくのを防ぐことが  
出来る。
あとは、魎皇鬼の呼びかけに、砂沙美が答えてくれればいいのだ。
しかし、呼びかける相手は、今目の前にいる砂沙美ではない。
その中にある、小さな光りの輝きに向かって呼びかけるのだ。
「砂沙美ちゃん、砂沙美ちゃん!聞こえる!?僕だ!魎皇鬼だよ!」
ばばばっ!!と、サイコ・ブレードと結界とが激しくスパークする中、魎皇鬼は砂沙  
美に呼びかけた。
背中で何が起こったのか、と、さして気にも留めていない様子だが、それでも一応振  
り向いた二人は、激しくスパークする光の向こうに、決死の形相の魎皇鬼がいるのを  
見た。
砂沙美は、魎皇鬼を怪訝そうに見つめている。
なぜ邪魔をするのか、と言いたげな表情であった。
「どうして、あたしをここから連れて行こうとするの……………?」
砂沙美は、うつろな目を魎皇鬼にむけた。
「こっちの魎ちゃん、砂沙美にとっても優しいんだよ…………?」
「だめだ!砂沙美ちゃん!闇に負けちゃいけない!」
スパークの向こうから、魎皇鬼は必死に呼びかける。
しかし。
「だって、砂沙美、こわいのヤなんだもん!いい子ちゃんだって言われるの、イヤな  
んだもん!さびしいの、イヤなんだもん!優しくしてほしいんだもん!!」
うつろな瞳からは想像もつかないほどの、激しい口調で砂沙美は魎皇鬼に答えた。
魎皇鬼は、砂沙美の言葉に絶句した。
言いようのない無力感に苛まれる。
サイコ・ブレードが、その輝きを小さくしていく。このままでは、再び弾き飛ばされ  
るだろう。
しかし、今の魎皇鬼には、そんなことはもはやどうでもよいことだった。
砂沙美をプリティサミーに仕立てたのは、魎皇鬼ではない。しかし、それを止めよう  
としなかったのは、やはり魎皇鬼なのだ。そして、それ以来、魎皇鬼は、砂沙美に戦  
うことを要求してきた。それが、いかにおちゃらけたものであろうと、わずか9歳の  
少女にそれを要求すること自体、すでに過酷なことなのだ。
まるで関係ない、ジュライヘルムの王位継承争いに、いやおうなしに巻き込んでしま  
った。
恐かったことだろう。逃げたかったことだろう。砂沙美がサミーに仕立て上げられた  
ばかりに、大事な友達の美紗緒が宿敵として立ちはだかり、その真実を知ってしまっ  
た時の衝撃は、どんな気持ちだったのだろうと改めて思うと、魎皇鬼は、身を切られ  
る思いだった。
そして、美紗緒をかばう砂沙美の姿は、クラスのごく少数のメンバーからは、「砂沙  
美はいい子ちゃんだ」との陰口の原因になっていることを知っていたにも関わらず、  
魎皇鬼は、砂沙美は、優しい両親に囲まれているから大丈夫だと信じていたのが、今  
になって悔やまれる。
砂沙美くらいの年齢になれば、両親以外の人間に、両親から与えられるもの以外のも  
のを求めるようになるのだ。それを、魎皇鬼は分かってやれなかった。
魎皇鬼は、うつろのな目をむける砂沙美に向かって、その両の瞳を正面から見つめな  
がら、静かに話しかけた。
それは、目の前にいる砂沙美に向かって話しかけているのであり、また、その奥に見  
えている、わずかに光を発している砂沙美に向かって話しかけているのだった。少し  
でも、闇を遠ざけ、光を取り戻すために。
「ごめんね、砂沙美ちゃん………………。恐かったよね、つらかったよね………。で  
も、今、僕は、ここにいるよ、キミのそばにいるよ。僕は、キミを大事に思っている  
よ……。だから、ね………。それに、キミは闇にこのまま消えてしまうことなんか、  
望んじゃいないよね?だって、さっき、僕は聞いたよ。キミの声を、キミの心を……  
……!ね、帰ろ…………。一緒に、帰ろう…………。修行なんてどうでもいいから…  
……。僕は、大好きなキミと一緒にいたいよ……………!」
魎皇鬼は、これ以上ないくらいやさしく微笑んで、砂沙美に向かって両手を差し伸べ  
た。結界など存在しないかのように、その両手は、砂沙美に向かって伸びて行き、砂  
沙美の両肩に触れた。魎皇鬼自身は気がついていなかったが、その両の瞳からは止め  
ど無く涙が流れていた。
そして、その両手に導かれるようにして、魎皇鬼は、結界を平然とくぐりぬけた。
そのまま、魎皇鬼は、砂沙美を包み込むように抱きしめ、動こうとしなかった。
もう一人の魎皇鬼は、そんな二人をじっと見ていたかと思うと、優しい笑みを浮かべ  
て、すうっと虚空に消えていった。まるで、そうなることを自ら望んでいたかのよう  
だった。
それとほぼ同時に、砂沙美の意識が戻ってきた。
「ん……………、えっ!?あっ!?、り、魎ちゃん!?」
魎皇鬼にしっかりと抱きしめられている砂沙美は、顔を真っ赤にして、しかし、魎皇  
鬼の抱擁から逃れるわけでもなく、もじもじとしたままじっとしていた。
「帰ろう…………。僕も一緒に行くから…………。僕は、キミが大好きだから………  
…!」
砂沙美は、はっとして、魎皇鬼を見た。
今まで、「好き」という言葉を、数えようもないくらい交わしてきたが、それは、「  
ともだち」であり「パートナー」であることを確かめる程度のものでしかなかった。  

しかし、今、魎皇鬼が砂沙美に言った「好き」は、次元が違うような気がした。
かけがえのない人、大事な人、大切な、何よりも大切な人…………。
すべてをなくしても、その人だけは絶対に失いたくない、そんな大切な人。
魎皇鬼は、それをたった一言の言葉に乗せた。
「魎ちゃん……………。」
そのせつな、砂沙美の瞳は、涙であふれた。
そして、そのままとどまることなく砂沙美の頬を伝って流れ落ちていった。
砂沙美は、しばらく魎皇鬼に抱きしめられるままに、その場にじっとしていた。
「ありがと…………。魎ちゃん……………」
聞こえるか聞こえないかの、ほんの小さな声で、砂沙美は魎皇鬼に答えた。
全身に、魎皇鬼の体温を感じながら。

その様子を、瞳を潤ませながら見つめている人物がいた。
津名魅である。
「ようやくですね、魎皇鬼…………。すべてをさらして、すべてをなげうって、そこ  
から得たものが、あなたの力となるのです…………。」
津名魅は、きびすを返すと、伝達用スクリーンに向かって歩いていき、意識を集中し  
て、スクリーンを作動させた。
津名魅がこれからそのスクリーンを使って話しかける相手は、魎皇鬼である。
「魎皇鬼、聞こえていますね、魎皇鬼……………」
「! 津名魅様!?」
魎皇鬼は、突如空間に割り込んできた映像を見て、驚きの声を上げた。
「魎皇鬼、よく成し遂げましたね。これで、あなたの修行は終わりです。あなたは、  
今まで以上の魔法力を身に付け、それを自在に使うことができるでしょう。そして、  
その中には、魔素凝結の術ももちろん含まれています」
そういう津名魅の表情は、限りなく穏やかで、どこまでも慈愛に満ちているように見  
えた。
「終わりって…………。そ、それでは、僕は………?」
魎皇鬼の言葉をつなぐように、津名魅が答えた。
「ええ。地球にお行きなさい。これ以上、ここに留まる理由はありません」
「………!  は、はいっ!」
砂沙美が不思議そうに、津名魅と魎皇鬼を見比べている。
「魎ちゃん、あの、それって、いっしょにいてくれるってこと?」
期待に満ちた表情で、砂沙美は魎皇鬼に尋ねた。返ってくる答えは、すでに分かりき  
っているが、それでも確認したい気持ちの現われだった。
魎皇鬼は、砂沙美の方を勢いよく振り返ると、満面に笑みを浮かべて大きくうなずい  
た。そして、すべての感情を全身からほとばしらせるように、魎皇鬼は、大きな声で  
砂沙美に答えた。
「うん! そうだよ!今から、これから、ずーっとずーっといっしょだよ!!」
「魎ちゃん………、魎ちゃん………、砂沙美、砂沙美ね、もう魎ちゃんが帰ってこな  
いんじゃないかって、ずっと思ってた。なんで、留魅耶くんは美紗緒ちゃんのそばに  
いるのに、魎ちゃんはそばにいてくれないんだろうって、留魅耶くんと美紗緒ちゃん  
のこと、いやに思ってた…………」
喜ぶかと思っていた魎皇鬼は、砂沙美の反応を見て、少し考えた後、砂沙美の話を聞  
くことにした。
「いっしょにいるのがつらかったの。そんなのって、ないよね。美紗緒ちゃんがうれ  
しいのなら、砂沙美だってうれしいはずなのに、どうしてあんな気持ちになっちゃっ  
たのか、ぜんぜん分からないの…………。もしかしたら、ほんとは砂沙美は悪い子な  
んじゃないかって、いい子ぶってるヤな子なんじゃないかって、そんな風に考えてた  
…………」
つと、砂沙美は視線を落とす。
「だから、あのとき、あの子の声が聞こえてきたとき、それもいいかなって思っちゃ  
って、そのまま暗いとこへ連れてこられちゃったの……」
それまで黙って聞いていた魎皇鬼は、砂沙美の両肩をしっかりとつかんで、砂沙美の  
瞳を見た。
「大丈夫!もう大丈夫だよ!だって、砂沙美ちゃん、今こうしてここにいるもの。僕  
の声に答えてくれたもの!さ、行こう!いっしょに、ね?」
魎皇鬼は、砂沙美の懺悔にも似た告白を、途中で打ち切った。
今、砂沙美が自分の前にいる。それだけで十分だったのだ。
それ以上何も聞かないし、聞く必要もなかった。
誰にでも、心の闇がある。
それに惹かれてしまうこともある。
だが、心に一片の光さえあれば、そこから抜け出ることはできるのだ。
それは、誰かを愛しいと思う心。一人ではないという意識。
心の闇にとらわれていた砂沙美は、魎皇鬼を求めた。そして、魎皇鬼も砂沙美を望ん  
だ。その2人の心が重なり合ったとき、光に導かれ、魎皇鬼は砂沙美を取り戻すこと  
ができた。
今、ここに2人でいること。それが何よりも大事であり、それ以外必要なかった。
「……………うん!」
砂沙美は、優しい笑顔を魎皇鬼に向けた。瞳がやや潤んでいたせいで、笑った目の端  
に小さく涙の粒が光っていたが、それがかえって、砂沙美の笑顔をよりきれいに、可  
愛らしく演出しているように思えた。
この笑顔を何よりも大切にしたい。
この輝きを、絶対に失いたくない。
そして、魎皇鬼は、しっかりと砂沙美の手を握った。
砂沙美もそれに答えて、ぎゅっと魎皇鬼の手を握り返した。
互いの温もりが伝わってくる。
トクン、トクン、トクン……………。
魎皇鬼の手を伝って、魎皇鬼の気持ちが伝わってくるようだった。
とても暖かい、優しい気持ちが、砂沙美の心を満たしてゆく。
「伝わってくる……………。魎ちゃんの想い…………。砂沙美のこと、こんなに想っ  
てくれてるんだね…………。」
砂沙美は、そっと目を閉じた。
魎皇鬼の想いを確かめるかのように。
その瞬間、砂沙美の周囲の空間がはじけたように輝き出した。
砂沙美自身が光り輝いているかのようだった。
「これは…………?」
魎皇鬼は、砂沙美に何が起こったのか、判断が付きかねた。
しかし、不思議と不安はなかった。
それどころか、とても穏やかな気持ちになっていくのを感じていた。
暖かな光に包まれている砂沙美の姿を、魎皇鬼はただじっと見つめていた。
魎皇鬼の視界の中で、砂沙美は、その光に包まれたままで、静かに目を閉じていた。  

まるで、水面にたゆたう木の葉のごとく、砂沙美は、その光に身を任せた。
やがて、砂沙美は、その姿を徐々に変えてゆく。
おさげを止めている髪飾りは、大きないちごになり、両手には白くそして長い手袋が  
現れ、胴には、青い大きなプロテクターがつき、両肩、両腰にはメタリックレッドの  
楕円形のプロテクター、そしていつものミニスカート、両足には金色に輝くロングブ  
ーツが姿を現した。
そして、最後に、額に、魔法少女を示すタトゥーが輝いた。
タトゥーは、現れたときはいつもの逆三角形だったが、それはすぐあとには、二つの  
丸いタトゥーになった。
砂沙美を包んでいた光がやむと、その中から、姿を変えた砂沙美は、天使が空からゆ  
っくりと舞い降りるように、その姿を現した。
「その衣装は……………」
魎皇鬼は、砂沙美の手を握ったまま、その一部始終を見ていた。
そして、その砂沙美の姿を見て、魎皇鬼はすぐに思い当たった。
想いの力を、その身に最大に受けたとき、魔法少女は、さらなる変化を遂げる。
二段変身などという、生易しいことではない。それは、進化なのだ。
過去のジュライヘルムにおいて、1度だけ、その姿を現したという、正義と慈愛とに  
満ちた、真なる魔法少女が、今、魎皇鬼の前に姿を現した。
「サ、サミー…………?」
なんと呼んでいいか、魎皇鬼には分からなかった。
しかし、目の前にいるのは、砂沙美が変身した魔法少女である。サミーという以外、  
魎皇鬼には呼びようがなかった。
「……………うん」
ずっと目を閉じたままだったその魔法少女は、魎皇鬼のその呼び掛けに答えて、静か  
にそのまぶたを開けた。
紅玉のような美しい瞳が、魎皇鬼を見つめていた。
「行かなくちゃ。美紗緒ちゃんが………。」
「行くってどこへ?」
魎皇鬼は、今までのことがあまりに唐突だったので、事態を把握しきれていない。
「まだ、あの子がいるの。もうひとりの砂沙美が。今、美紗緒ちゃんと戦ってるの。  
砂沙美、行ってあの子を解放してあげなくちゃいけないの」
魎皇鬼は、ここでようやくあのうつろな目をした、もうひとりの砂沙美を思い出した  
。
「で、でも、どうやって?」
砂沙美は、にこっと微笑むと、いつものサミーの決めポーズをとった。
「大丈夫!恋も魔法もサミーにお任せ!ねっ?行こ!魎ちゃん!」
そういうと、砂沙美は、魎皇鬼の手を握り締め、精神を集中した。
「う、うん、とにかく行ってみよう!」
砂沙美はその魎皇鬼の答えに微笑みを返しながら、魎皇鬼とともに、空間の中へ消え  
ていった。

第8話 「ありがとう・・・」を読む


ご意見ご感想はこちらへどうぞ!

戻る