『今日も遅くなります。先に寝てなさい。
                ママより』

 ……ふぅ。
 一人きりの静かな室内に溜め息が響く。
 いつものこと。パパもママも忙しいんだから。
 美沙緒はいつものように無理にそう言い聞かせた。
 筈だったが。
「……ひっ……ひぅ……ッ」
 もう馴れたはずだったのに、何故か涙がこぼれ落ちる。
 ――いくら美沙緒が聞き分けが良いと言ってもまだ九歳。
 両親が恋しいのも無理はない。
 ましてや普段ですらほとんど会えないのなら尚更である。
「ママ……パパ……淋し……ひっ……よぉ……」
 しゃくり上げるように両親を呼ぶ。
 だがそれに答える者は居ない。
「パパ……逢いたいよぉ……パパぁ……ひくっ……」
 美沙緒の父親は海外での仕事が多く、家に帰ってくることすら稀である。
 想いは募れど顔を見ることすらままならない。
「パパ……パパぁ……ひぁ……う……」
 涙で顔をぐしょぐしょにしながら、美沙緒はずるずると身体を引きずるように父親の部屋に入ってゆく。
 そしてタンスを開き、父親の寝具を取り出す。
 小さな美沙緒には不釣り合いな、だぶだぶのそのパジャマに身を包み、そのままベッドに潜り込んだ。

「夢で……夢でなら逢えるよね……パパ……」

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