牧場

 ちょっと熱っぽい。どうしたのかな。ママは今日はかえってこないから、ひどくな
らないうちに病院に行かないと。
「あら、美紗緒ちゃん。一人で来たの。偉いわね。ちょっとまっててね、すぐ診察の
順番がくるから。」
 息が苦しい。どうしてかな。また、入院になったら嫌だな。先生の呼ぶ声が聞こえ
る。
 先生は胸に聴診器をあてるなり、急いでいろいろな指示を看護婦さんに言う。私は
黙ってそれを聞いていた。
「何を考えているだ、この子の親は。ここまでほっとくなんて。」
 あまり、悪口は言わないでほしいな。そう思った。
 結局、入院になった。24時間ずっと点滴されながら私はずっと夢を見ていた。マ
マが来たのは夜中だったらしい。でも、それも看護婦さんから聞いた話でわかっただ
けで、朝にはママはいなかった。

「美紗緒ちゃん。」
 驚いた。前に発作で入院した時に同部屋だった女の子がいた。
「また、入院なの大変ね。せっかくの夏休みなのにね。」
 自分も入院しているのに明るい子だった。でも、あの子の病気は治ったと思ってい
たのに。
「どうしたの美紗緒ちゃん。無口ね。あっごめん。発作中じゃしんどくてしゃべれな
いわよね。」
「じゃ、悪いけど一方的にしゃべるわよ。誰もいなくて退屈だったんだから。」
 私はにこっと笑い返すのが精一杯だったけれど、彼女はそんなことに構わずしゃべ
り続けた。家族の事や田舎にある牧場の事などを楽しそうにしゃべり続けた。

「じゃ、部屋を移りましょうか。」
 看護婦さんがその子の所に来た。
「もう、そんな時間。もっとしゃべりたかったのにな。じゃ、美紗緒ちゃんまたね。」
 私はまだ声をだせるような状態じゃなかった。

 4日たって、先生からやっと退院の許可がでた。だれも迎えに来てくれなかった。
ママは前の日のうちに病院のお金は払っておいたから心配いらないと言ってたし、近
所だからいいけど。ふと、あの子の両親がいるのに気が付いた。ちょっとうらやましかった。
 挨拶しておこうと思い両親の後をつけた。

 病室で、あの子は好きだといっていた模様のパジャマを着て黙って寝ていた。
「この子ね、前に入院した時から美紗緒ちゃんみたいな妹が欲しいといつも言ってた
の。だからね、お願い手を握ってあげて。」
 手は冷たかった。
「これね、美紗緒ちゃんにあげる。」
 小さな女の子の人形だった。
「元気になったら美紗緒ちゃんと一緒に牧場に行くんだってそんな事言うのよ。美紗
緒ちゃんの迷惑も考えないんだから。」
 笑っていた。
「この人形を大切にするから・・・。」
 そう返事したような気がする。


「るー君。このオペレーションはラブラブモンスター牧場でスペーシャルにパワーア
ップしたラブラブモンスターズでサミーをこてんぱんにやっつけるというわけよ。」
「ミサ、それはいいんだけど、あの仮病女ってなんだい。」
「るー君ったらいつから口答えできるぐらい偉くなったの。」
 ちょんちょんと頭を優しくなでるミサ。
「いや、べつにミサのする事に反対するわけなんてないよ。深い考えがあるんだよね。」
 あたしはるー君の言葉を半分聞きながしながら、仮病女と少年とのやりとりを見ていた。
  
  (終わり)
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