ここは、魔法の国、ジュライヘルム。我々地球に住む人間が“物質文明による繁栄”
の象徴と言える“科学”の力で生活を営んでいるのならば、ジュライヘルムに住む人々
は“精神文明による繁栄”の象徴で、かつて地球にも存在していた“魔法”の力で全て
の事を行っている。今回はそんな“魔法=心の力”が存在しなくなった地球で、起こっ
た“奇跡という名の魔法”のお話・・・・。



  ジュライヘルムのとある一つの住まいの出来事から始まった・・・


「こらぁ~~っ!  留魅耶!  あんた、また失敗したね!!」

「裸魅亜姉さんの作戦がズボラなんだよ!  もう少し計画練ってから・・」

「だぁまれぇ~っ!  留魅耶ぁ!  
                  お前があたしの完璧な作戦をちゃんとミサに実行させないから!」

「どこが完璧なんだよ。思いつきで考えたくせに!」

「あたしの思いつきは完璧なのよっ!  全てはお前がいけないんだぁ!!」

「そんなむちゃくちゃなぁ~~!」

  
  ここの住まいの住人は、20歳ぐらいの女性と10歳の男の子の2人である。

  まず女性の名は裸魅亜、ジュライヘルムの現女王である津名魅とはかつて女王候補と
して共にいたのである。知力・魔法力と裸魅亜にかなう者は誰一人いなかったのだが、
女王を決める“降臨の儀式”では、いま魔法力はさほどではないが、秘めたる大きな力
をもっている津名魅が女王に選ばれたのである。津名魅が女王になったときから、裸魅
亜は彼女を女王の座から引きずり下ろそうとして、様々な妨害作戦にでたのである。

  現女王である津名魅の最初の仕事は、ジュライヘルムを支える“ジェミニの天秤”が
“邪”に傾いているのを善悪のバランスを元に戻すことであり、そのための使命を・・
というよりも無理矢理であるが、津名魅の代行者として地球の平和を守ることになって
しまった少女、津名魅と魂を同じくする者=河合砂沙美が“魔法少女プリティサミー”
となって今日も一生懸命地球のため津名魅のために活躍しているのである。

  裸魅亜はそんなサミーの活躍を妨害するため、自分と魂を同じくする者で、サミーこ
と河合砂沙美の親友である天野美紗緒を“魔法少女ピクシィミサ”に無理矢理仕立てて
サミーの善行を妨害する作戦にでたのである。しかし、冒頭でも述べられたように、思
いつきの作戦でいつも実行し、ミサのつめの甘さもあるのだが、いつもあと一歩でやら
れているのである。


  そして、そんな裸魅亜の思いつきの作戦を地球にいる美紗緒=ミサに連絡する役目を
持っている、いま、裸魅亜にお仕置きされている少年の名は留魅耶。彼は裸魅亜の実の
弟で姉譲りの魔法力をもっているが、本人にはさほどの自覚がないのでその力はすべて
使いこなせないのである。


  さて、今回も裸魅亜にたっぷりと絞られた留魅耶でありますが、そんなストレスが溜
まった彼が地球でよくやるストレス発散法があります。それは・・・・


「さてと、姉さんはもう寝たかな?  バレたら大変だからなぁ・・」


  夜、姉が寝静まったのを見計らって、留魅耶は鳥の姿となって、一路地球へと向かう
のであった。そして、その行き先はなんと自分の姉と魂を同じくする美紗緒の家なのだ。
彼は何度も美紗緒と会っているうちに、だんだん彼女の顔や姿を一分でも一秒でも多く
見ていたいという気持ちが込み上げてきたのである。そんな衝動にガマンできす、夜、
うるさい姉の目を盗んで、もう2ヶ月近くも美紗緒の家に通いつづけている・・・


「しかし、鳥にならないと地球に行けないのはつらいなぁ~!」


  留魅耶はいつも、彼女と会う時は自分は鳥の姿で、しかもミサになっている時でない
としゃべれない。美紗緒の時には鳥の姿のまま話してしまうと彼女が驚くからである。
彼にとってはそれが悩みなのである。自分の本当の姿で美紗緒に会いたい!  それが彼
の心からの願いである。

  しかし、それはかなわない夢なのである。なぜなら、この地球は“魔法=心の力”を
維持できる力がほとんどなく、彼ぐらいの魔法力ではとても自分のそのままの姿を維持
できないのである。そこで、体を小さくしてその魔法力を維持しようというわけなので
ある。彼の場合はその方法が“鳥になる”ことなのだ。彼にとって、そのことは彼の頭
の中では分かりきっていても、あきらめきれない願いなのである。


  バタバタバタッ・・・・(羽ばたきの音)

「さてと、今夜は美紗緒、何をしているのかな?」


  彼は美紗緒の家の前まで来ると、家の近くの木に立ち止まり、家の窓から家の様子を
見た。家の中ではピアノの練習をしているパジャマ姿の美紗緒の姿があった。留魅耶は
そんな彼女を見ているのが地球に来る、唯一の楽しみであったのだ。


「しかし、美紗緒があの姉さんと“同じ魂を同じくする者”だなんて、
                 信じられないな。ときどき疑いたくなるよ。容姿はとにかく・・・」


  “魂を同じくする者”これは人の存在の中枢である“魂”が同じ因子である者同士の
ことを表している。例えば、双子だったら、容姿は同じでも性格まで同じではないのと
同じなのだ。同じ因子の魂の人間だから、当然容姿も似ていて同然である。


  留魅耶が木に止まって、しばらくしてから、窓からパジャマ姿で上をコートを着込ん
だ美紗緒が声をかけてきた。


「鳥さん、今日も来てくれたんだ。うれしい・・・」


  留魅耶は最初、ただ美紗緒の姿をみるだけでよかったのだが、今はこの一言を聞きた
いがために通っていると言っていい。自分を嬉しい顔で迎えてくれる美紗緒の顔をみた
いがために通っていると言っていい。留魅耶にとって、彼女はいつも虐げられている生
活のオアシスのような存在になっているのである。

  美紗緒がそんな留魅耶=鳥の存在に気がついたのは、いつのころだろうか・・・


  その日は美しい星空の夜であった。いつも夜は外の星空をみない美紗緒が、きれいな
星空を見ようとして窓から眺めていた。

  父親は海外に演奏旅行中で、母親は仕事で夜遅くなる事が多い美紗緒の家では夜、美
紗緒が一人でいる時間が多いのである。そんな時は大抵、あしたの宿題をやっていたり、
ピアノを弾いていたりして過ごしているのである。彼女が木に止まって、いつも自分を
見守る鳥=留魅耶の存在に気がついた日もそんな、一人だけの夜の時であった。

  窓を開いてみると、自分を見つめる鳥の姿があった。普通の人ならば、そのまま、そ
の熱い視線を無視するのだが、美紗緒はその視線が気になって仕方がなかったのである。
純粋ゆえに自分に当てられた熱い想いを感じ、そして溜まらず声をかけた・・・


「ねえ、鳥さん、どうしてあなたはあたしを見つめるの?  
                                              あたしが寂しそうにしてるから?」


美紗緒には、常識として考えても鳥に言葉をかけても意味がないとわかっていた。しか
し、その時はなぜか、声をかけずにいられなかったのだ。美紗緒はミサになっている時
の記憶はまったくないのである。なので当然自分の家の側の木に止まっている鳥=留魅
耶がしゃべれる事は知らないはずである。それを知っているのは美紗緒の心の中にいる
ミサだけ・・・  そんなミサも彼の美紗緒への想いは知らないのである・・・
 
  いつも美紗緒を見守る、そんな留魅耶の熱い想いに確認しようとした、彼女の純粋な
問いであった。留魅耶は思わず驚いてしまったのだ。

『どきっ!』

『どうしたんだろう・・・  美紗緒の顔をまともに見れないなんて・・・・』

その時、留魅耶の心の中には思春期のボーイズ特有のときめきモードが作動する音が聞
こえてきたのである。自分でもどうしたらいいのか分からなかった。しかし、確実に美
紗緒に対する思いが変わったのだけは感じていたのであった。このときから、ひとりの
少年の淡い初恋物語の始まりであった。

『美紗緒・・・』

  彼はこの胸のときめきがわからなかった。美紗緒の顔がまともに見れない・・・でも、
一日でも一秒でも美紗緒を見ていたい。一緒にいたい、そんなホワホワした雲のような
想いが彼にはこみ上げてきたのである。  

「鳥さん・・・  これから毎日、美紗緒に会いにきてくれる?」

まるで留魅耶の心を読み取ったように美紗緒はそう彼につぶやいたのであった。彼はこ
の言葉によって、彼女は夜、いつも寂しい思いをしているのを悟ってしまったのである。
そして彼は決心したのだった・・・・

  それからというもの、ほとんど毎晩のペースで彼女の家にお忍びで通うようになった
のである。昼間は姉の雑用でこき使われ、もうクタクタのはずであるが、美紗緒の顔を
見れば、そんな疲れは一気にふっとぶのであった。それに自分に会えるのを楽しみにし
ている美紗緒を悲しませたくない・・・っという面目もあったが、本音はなにより、美
紗緒に会いたいという思いからであった。それが自分と美紗緒のためだと信じて・・・


『美紗緒に会える・・・  鳥の姿のままだけど、今はそれだけでいいんだ。』

  心の中でそうつぶやいて・・・




  昼はあいかわらず裸魅亜の雑用で働き、夜は美紗緒の家へ通う、そんな生活を毎日し
ている留魅耶である。当然疲れもそうだが、寝不足になる。目にもくまができてきたの
である。しかし、そんな状態でも夜のお散歩はやめなかったのである。美紗緒の顔を見
たいがためだけである。

  そんなこんなで数日が経過したある時、裸魅亜がまたしても思いつきでサミーを懲ら
しめる作戦を考え、その作戦を留魅耶に説明する時である。

「え~~っ!  今回の作戦は・・・・・」

一つ一つ丁寧に留魅耶に説明する裸魅亜。本来なら自分が直接いって作戦を実行したい
のであるが、それをおこなってしまったら二度と女王候補として、いえ、それ以上に今
まで築き上げた彼女の地位が一気に落ちてしまうのである。そんな裸魅亜の歯がゆい思
いで説明しているときに、留魅耶は

『また、いつもの思いつき、そしていつも上手くいった試しなしの作戦か・・・』

心の中だけで、しかも声に出して言ったら確実にお仕置きされる言葉をつぶやきながら
留魅耶は話を聞いていたのである。そして段々どうでもよくなってウトウトと居眠りを
始めてしまったのである。睡眠寸前で我に返った彼は、裸魅亜を怒らせるとヤバイので
一生懸命睡魔と闘った留魅耶であったが、とうとうエンジェルスマイルを浮かべて寝て
しまったのである。そして、恐れていた惨劇が・・・・・


「るぅ~~~みぃ~~~やぁ~~~~!!」


まるで富士山がいきなり大噴火を起こしたかのように裸魅亜は怒りだしたのである。ウ
トウトしている留魅耶の服の胸元をつかんでグイグイ引っ張りながら 


「おんどりゃぁ!  あたしが説明している時に居眠りなんていい度胸ねぇ!」


その怒号に慌てて起きた留魅耶であったが、時は既に遅し・・・  


「ねっ、ねえさん、べっ、べつに姉さんの作戦が毎度毎度、
                                       思いつきでくだらないから寝ていた・・・」

「くだらなくて悪かったわね」

「へっ?(心の声:『やばーっ、本当の事言っちゃったよ!』)」

「留魅耶君、最近お疲れねぇ!  あたしが寝ている時に何処にいっていたの?」


その言葉を聞いた留魅耶は一気に血の気が引いたのである。もっ、もしや・・・


「ねっ、姉さん。何の事なのかな?」

「お姉さんはなぁ~んでも知ってるのよ。夜、お忍びで女の子の所へ・・・ 
                                      あんたも大人ねぇっ!  お・ま・せ・さん」

「なっ、なんのことなの?  ねえさん・・・・」


留魅耶の顔、いや、全身から汗という汗がダラダラ・・・  まるで滝のように流れてい
たのである。ああ、もう終わったと・・・・  

「留魅耶、そぉんなに眠りたかったら・・・・」

「そっ、そんなに眠りたかったら?」

「一日中寝とれぇ~~~!!」


そう叫んだ裸魅亜はどこから出てきたかは不明だが、布団とロープを取り出して、まず
ロープで留魅耶の体の自由を奪うために手足を縛った!!

「なにするんだよ、姉さん!!」

「だまれぇ!!」

もはや誰も彼女を止めることはできなかった。彼女は自由のきかない留魅耶をその上で
布団をグルグル体にまきつけ、止めにその巻きつけた布団の上にロープできつく縛った
のである。留魅耶簀巻きの完成であった。

「姉さん、これって・・・」

「家の外で、好きなだけ寝ていろっ!!」

その言葉がでたと同時に裸魅亜は簀巻きになった留魅耶を蹴飛ばし、あまったロープを
部屋の柱に縛り、家の窓からあたかも蓑虫のような状態にしてしまったのである。それ
でも怒りが収まらない彼女は、自分が直接地球へ行ったのであった。目の前でサミーが
やられる姿を見るために・・・  しかし、自分という事がばれない格好になって・・・



「ミサの馬鹿ヤロウーーッ!!  あと一歩でサミーにやられやがってぇ!!」

  数時間後、ますます怒りゲージをあげた裸魅亜が部屋に帰ってきたのである。案の定
思いつきの作戦で良く見れば失敗という穴が多いことに気づかず、またミサのつめの甘
さが相乗効果を生んで、サミーをあと一歩まで追いつめたのに見事にやられただ。

  半分はミサが悪い、しかし自分の作戦の甘さをまったく自覚してない彼女は全部ミサ
のせいだと思っているのである。やり場のない怒りをとりあえず部屋をしっちゃかめっ
ちゃか散らかして発散しようとした。しかし、そのとき裸魅亜は異変を感じたのである。

  いつもだったら整理整頓されている部屋がこの時ばかりは散らかったままである、先
程、留魅耶を簀巻きにしてお仕置きしたときに散らかしたままの状態だったのだ。いつ
もは裸魅亜が大人しい時やいない時に留魅耶が片づけているので、長時間散らかってい
ることはなかったのである。その留魅耶は簀巻きになったまま・・・

「そっか、留魅耶、外へつるしっぱなしだったんだ。」

簀巻きにした事を思い出した裸魅亜だったが、0.05秒後には忘れていた怒りがメラ
メラ再熱してきたのである。

「いっちょう、簀巻きになってる留魅耶をサンドバック代わりに怒りをぶつけるか!」

と、どこから取り出したか不明だが、ボクシンググローブを取り出して、留魅耶のとこ
ろへと思った。ジャブをしながら・・・・


  留魅耶のところで行くと、留魅耶は寝ていたのである。ここ数日の寝不足もあり、簀
巻きとはもうせ、暖かい布団に包まっている留魅耶にとって、あまり苦痛ではなかった。
そして、気持ちよくなって・・・  そんな純粋そうな寝顔をみて、ますます怒りの炎が

燃え上がってきた裸魅亜・・・

「おのれわぁ~!  あたしが苦戦していたのに、すやすや寝やがってぇ~~!」

丹下段平も惚れ込むような見事な右ストレートを留魅耶の顔にめがけて、一発お見舞い
させようとしていた、その瞬間

「美紗緒・・・」

その留魅耶の寝言で顔への右ストレートを寸止めしてしまったのである。留魅耶の顔と
グローブの差わずか0.05cm、もう神業の境地である。その右グローブをどかして
みると、先ほどのすこやかそうな寝顔から涙がこぼれていたのである。その涙にすっか
り拍子抜けしてしまった裸魅亜は、その涙ですべてを悟ったのである。

『いつまでも子供だと思っていたら、いっちょまえに好きな女の子ができて、その娘
        の家へお忍びで行くなんて、こいつももうそんな年頃になったんだ・・・。』

彼女は留魅耶の顔を見て、そんなことを心の中でつぶやいていたのである、そして普段
は彼の前で絶対見せないような、穏やかな表情をしていた。なんだかんだといっても、
血を分けた弟を思う気持ちはあったのだ。彼女にとっては彼が自分が知っているただ一
人の肉親なのだから・・・・


------------<裸魅亜の回想シーン・・・>-------------



  裸魅亜が魔法でトップに立てた要因の一つが彼であったのだ。留魅耶は昔から内在す
る魔法の力は凄いものがあったのだが、気弱な性格から、その力を使いこなせなかった
のである。そんな留魅耶は同世代の男の子から格好のいじめ相手で、よく泣かされたの
であった。裸魅亜はその度に弟をいじめた連中を懲らしめていたのである、両親がいな
い彼女たちにとって、唯一の弟を守るのは自分だと裸魅亜は思っていたので・・・  

  留魅耶に苦労をかけさせないためにも、自分が偉くなって、留魅耶を守ってあげたい
という一念からか、彼女は一生懸命、魔法の訓練に明け暮れたのであった。自分が偉く
なれば、留魅耶もいじめられなくなる、留魅耶に苦労をかけずにすむであると心に念じ
て。現女王の津名魅とはこのころからの付き合いで、津名魅にとって、裸魅亜の性格は
あのころの一生懸命なころが本当の彼女だと信じて疑っていないのであった。

  そんな一生懸命な裸魅亜を変えたのは、ある一つの知らせからであった。一生懸命訓
練や勉強をしていた彼女はそのときにはトップエリートの仲間入りをしていたのであっ
た。もともと魔法力に関しては天才的であった彼女であったが、天才以上に努力をして
その力をさらに高めたとして、ジュライヘルムの先代女王からお褒めの言葉をもらった
のであった。そして・・・

「えっ、あたしが次の女王候補に決まった? 本当に?」

先代女王が倒れて、いつ崩御されるかわからない危険な状態に陥ったのであった。女王
は自分が倒れる前に、自分の跡継ぎに相応しい者を数人選び出していたのであった。そ
の候補とは、彼女の親友の津名魅、地球人の露魅御、そして裸魅亜であった。

「あたしが女王様、この国の女王様なのね・・・」

この頃から彼女は変わってしまったのであった。“女王”という文字が彼女の眠ってい
た“欲望の炎”を一気に呼び覚ましてしまったのであった。“女王になってこの国を自
分の思いのままに動かす”という欲に、最初の“留魅耶のため”という目的が見えなく
なってしまったのであった。



-------------<回想シーン終わり・・・>-------------



  留魅耶の寝顔を見て、裸魅亜はそんな昔の事を思い出していたのであった。そして、

「そういえば、こいつに最近なんにも姉らしいことしてないわね・・・」

とつぶやくと、水晶を取り出して、なにやら何処かをのぞいていたのであった。


  裸魅亜が見ていたのは、地球の美紗緒の部屋であった。美紗緒はベットにこそいたが、
掛け布団で体を纏って、部屋の窓を開けてなにやら待っているようであった。冬が本格
的に迫っている季節に、暖房もいれず、いくら布団を体に纏っているとはいえ、下手す
れば風邪をひいてしまう、そんな中で美紗緒はベットの上で座っていたであった。本来
ならば外で待っていてもよかったのだが、その日は美紗緒の母がめずらしく夕方に帰っ
てきたのであった。そして久々の2人の夕食のさなかで、

「宿題とかやるべき事がすんだら、早く寝なさい。今夜は寒くなりそうだからね」

と言われて、母親と一緒にいることが嬉しかった美紗緒は素直にその言葉に従った。そ
して、寝る前にベランダを出て、いつも時間通りに現れる鳥さん=留魅耶を待っていた。
しかし、時間になっても現れなかったのである。心配になった美紗緒は待ち続けようと
していたが、母親がベランダに美紗緒の存在を知って、そこへきて

「ベランダに長い間いると風邪引くわよ。さっきも言ったようにもう寝なさい!」

と注意した。彼女はしぶしぶ自分の部屋に戻った。そして、部屋の窓をこっそりと開け
て、自分は寒くない様に布団を羽織のように纏ってベットに座り、彼を待っていたので
あった。しかし、小学生である彼女にとって深夜遅くまで起きる事は難しく、やがて、
ベットの上で布団を纏ったまま寝てしまったのであった。彼女の寝顔から大粒の涙がこ
ぼれてきた・・・

「鳥さん、鳥さん・・・・・」


  その様子をじっと水晶球で見ていた裸魅亜はちょっとした罪悪感を感じていた・・・

「二人とも、そんなに相手を思っていたなんて・・・  
                          しかも美紗緒は留魅耶の正体知らないのに、そこまで。」

  “恋”という魔法に関しては無知と言っていい裸魅亜にとって、それは理解不明なこ
とも多かった。しかも美紗緒に関しては、そこまで自分の弟をまっているのが“恋”な
のかどうか分からなかったのもあって、余計分からなかった。しかし、少なくとも、自
分が悪い事をしたという実感だけはわいていたのであった。彼女はしばらく考えたのち、
1つの名案を思い付いた・・・  そして、あわてて自分の部屋へ行ったのであった。




「ここは、夢?  それに妖精さんや砂沙美ちゃんは?」

美紗緒は現実には存在しない世界ににいたのであった。それは夢の世界、正確にはジュライヘルム
に似たような、常春の世界であった。砂沙美というかけがえのない友達を得る前の美紗
緒にとって、ただ一つの楽しみは、この夢の世界で、自分のイメージした妖精達と遊ぶ
ことであった。内向的な美紗緒にとって、自分の妄想の産物であるその妖精達が唯一の
友達であったのだ。そして砂沙美が友達になってからは、砂沙美と共に・・・

  しかし、その日に限っては、その妖精達がいないのであった。そして砂沙美もいなか
ったのである。不安にかられた美紗緒であったが、やがてどこからか、いつも聞いてい
る翼を羽ばたく音がしてきたのであった。

「もしかして、鳥さん?  今まで夢に出てこなかったのに・・・」

鳥は美紗緒の前に近づくと、大きくはばたき、翼を広げた。そして鳥の体から光が太陽
のように溢れてきたのである。その光の中の鳥のシルエットはやがて、美紗緒と同じぐ
らいの背丈の人間のシルエットへと変わり、輝きが最高点に達したと思った瞬間、先程
まで溢れていた光はスッと消えてしまったのであった。その最後の輝きに目をつぶって
しまった美紗緒が、光が消えて、目を開いてみると、自分と背丈、年齢が同じ少年がそ
こに立っていたのであった。先ほどまではいつも夜に訪ねてくる鳥がいた場所であった。


「あ、あなたは誰ですか?」

「あっ、僕?  僕は、いつも夜、君と・・・・」


美紗緒は一瞬、耳を疑った。まさかこの少年が・・・!?  しかしいくら夢だとはもう
せ、美紗緒にはとてもそれが夢だとは思わなかったのだ。少年も自分を見て驚いていた
ようで、すごく照れていた表情だったのだ。なにがなんだか分からない美紗緒だったが、
繰り返して質問してみた。

「あなたは、いったい誰なんですか?」

「そっ、そのぉ~~  僕は留魅耶って言って、毎晩鳥になって・・・」
    
少年は、モゴモゴした照れた表情で美紗緒にそういった。美紗緒はそんな留魅耶にちょ
っと心を許したような表情を浮かべた、頬の辺りが桜が咲いたような色になっていた。

「あなたが、鳥さんなのね。毎晩あたしを訪ねてくれてありがとう!」

「そんな・・・  対したことないよ。美紗緒・・・ってごめん!?」

「どうしたの?  鳥さん・・・ってごめんなさいね!?」

二人は相手がなぜ謝ってきたのかが分からなかった。しかし、お互いちゃんとしたご対
面は初めてだったので、すこしぎこちなかったのである。それから、しばらく静寂が二
人の時間を支配したのである、お互い、どう話を続けていったらいいのかわからなかっ
たのだ。しかし、しばらくして留魅耶がその沈黙を破った。

「いっ、いやぁ、初対面の女の子を呼び捨てるなんて、やっぱ、よくないよね。
                                             あはっ、あははははは・・・・・!」

留魅耶はテレ笑いをしてしまった。それにつられるように美紗緒もテレ笑いをしてまっ
たのだった。今まで留魅耶に見せた中で最高の笑顔であった。


「ううん、鳥さんの時からの知り合いだから、呼び捨ててもいいよ。その代わり・・」

「その代わり・・・?」

そういうと美紗緒は再び顔を赤らめて、黙り込んでしまったのであった。どうしたかと
思った留魅耶は心配そうに美紗緒の顔を覗き込んできた。美紗緒は更に慌ててしまった
が、留魅耶の心配した表情を見て、すこし安心したのである。

「どうしたの?  美紗緒、急に黙りこんで・・・・」

美紗緒は、自分の中にあるわずかな勇気を集めていたのであった。そして桜色に染まっ
た頬をした顔を留魅耶に向けた。留魅耶はそんな美紗緒の表情にドキッ!としてきたの
だ。そんな留魅耶の心を知ってか知らずか、美紗緒は留魅耶に話し掛けた

「ねえ、あなたの事を“鳥さん”から“ルー君”って言っていい?」

留魅耶は一瞬呆気に取られたのであった。美紗緒の集めていた勇気とは、この一言を言
うためのものだったのだ。美紗緒にとって同年輩の男の子と1対1で話す事でさえ勇気
がいることであった。“ニックネーム”で男の子を呼ぶなんて、とても美紗緒にはでき
なかったはずであった。しかし、なぜか留魅耶に親しみを感じていたのだった、ミサの
時の記憶はないはずなのに・・・・  

  留魅耶はそんな顔を赤らめている表情に、思わず“可愛い・・!”と思ったのであろ
うか、なんか嬉しそうな表情をしていたのだ。そして

「“美紗緒”と“ルー君”か・・♪  こっ、これから
                             二人で呼び合うときの相手の呼び名だね、いいよね。」

「うん、ルー君」

「みっ、美紗緒、なんだか、照れくさいよね。あはっ、あはははは・・・・・」

「ホントね、ルー君、くすっ♪」

「あはははははっ・・!」

「んふふふ・・・・!」

二人は思わずその場で笑い出したのであった。今までのぎごちない雰囲気が嘘のように
なくなっていたのであった。二人はこうして、“他人から友達”への第一歩の階段を今、
確実に2人3脚で踏み出したであった。そんな二人の周りに、いつものように妖精達が
集まってきたのであった。まるで二人を祝福するかのように・・・

  もう、すっかり最初の硬い雰囲気がなくなった二人は、もう何年も付き合っている友
人のように話していたのであった。美紗緒は同世代の男の子と話して、こんなに楽しい
と思った事は今まで一度もなかったのであった。しばらく、会話が弾んだところで、

「これから、どうしようか?  美紗緒」

「この子(妖精)達とみんなで遊ばない?  ルー君っ♪」

「そうだね、美紗緒!!」

そういって、二人と妖精達は夢の世界で、花摘みをしたり、かけっこをしたりして、疲
れるの忘れて、遊び続けたのであった。美紗緒にとって楽しい時間がどんどん経過して
いったのであった。そして、とうとうその夢の世界とのお別れの時間が来てしまったの
であった。

  最初はいっぱい咲きまくっていた花園は姿を消し、妖精達もとっくに姿がなかったの
であった。とうとう、美紗緒と留魅耶だけになってしまったのであった。

「もう、お別れだね。ルー君・・・・」

「そうだね、美紗緒・・・」

お互い、別れるのが辛そうな表情であった。彼女は砂沙美と別れる時にも心のどこかに
寂しいと思った事はあったが、今いる留魅耶と別れることで砂沙美の時とは違った意味
での寂しさを感じていたのであった。砂沙美とは次の日にまた会えるのだが、留魅耶と
はもう二度と会えないような気がしたのであった。

「ルー君、今度いつ会えるの・・・?」

「鳥の姿でよければ、いつでも・・・」

「ううん、今の本当の姿のあなたとなの!」

美紗緒はいつになく真剣な表情で留魅耶に迫ったのであった。留魅耶はしばらく悩んだ
ような表情をして考えていたようであった。そして

「美紗緒、この姿でまたいつか会えるか分からないけど、
              鳥の姿でもこの姿でも、僕は僕。君を想っている心は変わらないよ!」

「ル、ルー君・・・・・」

美紗緒はその言葉に、胸が“きゅん”となってしまったのであった。今まで見てきた留
魅耶の表情の中で、男らしいもので、美紗緒はこの時、初めて“異性”として意識し始
めたのであった。そんな美紗緒の心境を見透かすような表情で留魅耶は顔を美紗緒の顔
に近づけた。ますます胸の“きゅん”という音が大きくなっていく美紗緒・・・

「美紗緒、僕はいつでも君を・・・」

そういって、留魅耶は美紗緒のおでこにキスをしたのだ。そして、キスをした次の瞬間、
留魅耶と美紗緒は一気に完熟トマトのように顔を紅くしたのであった。数秒の沈黙の後、
留魅耶の体が光り始めたのであった、そして留魅耶はゆっくりと美紗緒から離れていっ
たのであった。その光をみて、我に返った美紗緒は留魅耶を追いかけようとしたが、途
中で転んでしまい、美紗緒と留魅耶の距離がもっと遠くなっていったのであった。光は
輝きを増して、留魅耶を包み込もうとしていた。そして、留魅耶はその光に飲み込まれ
そうになっている中で大声で美紗緒に

「いつか、いつか、この姿で君と再会するよっ!  約束する。」

「どうして、いつも鳥の姿で会いに来てくれるの?  
                                          どうしてその姿で訪ねてくれないの?」

「それは、僕は・・・・・」

留魅耶は美紗緒の言葉を完全に応えきれない状態で消えてしまったのであった。

「ルー君っ!  るーくぅーーんっ!!!」

美紗緒は大きな声を出して留魅耶を読んだのだ。大粒の涙をこぼしながら・・・・
そして、美紗緒の頭上の空から、一枚の羽がハラハラ舞いながら落ちてきたのであった。
それは留魅耶が鳥になった時の羽であった。そして、その羽を拾った次の瞬間、とてつ
もない巨大な光が美紗緒を包んだのであった!!

「キャアァ~~~~ッ♪」





「はっ、ルー君?  あっ、あたし、寝ていたんだ・・・・・」

美紗緒はベットから目を覚ましていたのだ。昨日開けてあった窓は閉められ、布団を纏
った姿のままで寝たはずなのに、ちゃんと体に布団が掛かっていたのであった。美紗緒
はこれを

「ママだわ。ママがあたしが寝てから、
                          部屋に来てちゃんとあたしをベットに入れてくれたんだ。」

そうして、ベットから出ようとした時、布団の上に何やら小さく長いものがあるのを見
つけた。それは夢の世界から出る最後の瞬間、つかんだ羽であった。そして、自分の顔
を鏡で見てみると、涙の跡があったのであった。その跡を触ってみると、まだ流れきれ
なかった水滴がのこっていたのであった。

「あれは、夢だったの、それとも・・・?」

彼女は羽を握り締めて、夕べ見た夢を思い返していたのであった。



  美紗緒が起きたと同時刻に留魅耶は目を覚ました。そこは外ではなく、自分の部屋で
あり、しかも寝間着をきてちゃんと布団を敷いて寝ていたのであった。自分は確かに簀
巻きになって、外で寝ていたはずなのに・・・  

「美紗緒・・・  夢でもよかったよ。君に会えて・・・・」

  実は留魅耶も美紗緒と同じ夢を見ていたのであった、いいや、正確には美紗緒の夢の
世界に留魅耶の夢での意識が流れてきたのである。

  留魅耶は夢の世界で美紗緒に会う前に、自分の夢で鳥になっていて自由にかけまわっ
ていたのであった。ある時に、光の玉が現われて、留魅耶をある場所に導くように動い
ていったのであった。その光の玉に興味がわいた留魅耶は鳥の姿のままで、それを追い
かけていって。そしてジュライヘルムに似たような場所に来て、花園が見つけたのだ。
そこにちょうど女の子らしい人の姿がいたので見に行こうとしていたら、追いかけてい
た光の玉が自分の中に飛び込んできたのである。それからは美紗緒の夢と同じであった。

  しかし、そんな事実を知る由もなかったのであった。その後の出来事に遭遇するまえ
までは・・・  とくに最後は、夢ということで、男らしく、いきなり口付けだと抵抗が
あったので、おでこにキスをしてしまったのであった。彼になんでそんな度胸があった
というと、その時の美紗緒は、自分の夢でできた産物なので、大丈夫だと確信があった
のであった。しかし、そこのいた彼女は美紗緒自身の夢での意識であって、彼の夢の産
物などではなかったのであった。
   

  しかし、光の玉を用いて、留魅耶の夢での意識を見事、美紗緒の夢に導いた神のよう
な存在とは一体誰なんだろうか?  ここまでの高等魔法を使いこなせる人間はジュライ
ヘルムでも数人しかいない・・・  それはっ!!

「ふわぁ~~~!  一晩寝てないから、眠くて眠くて・・・」

大あくびをあげた女性、裸魅亜その人であったのだ!  美紗緒と留魅耶の夢でのデート
の全ての元凶いいや、元締めが彼女なのだ。彼女は水晶玉を見たあと、自分の部屋で人
の夢に入ることができる魔法の支度をして、そのあと外に戻って簀巻きになった留魅耶
を彼の部屋にいれて、寝間着をきせて、ちゃんと寝かしつけた。そして彼の髪から一本
髪の毛を引っこ抜いて、その魔法の儀式を行ったのであった。留魅耶の髪を羽にして、
美紗緒の部屋に送り、その羽を道標にして、留魅耶の夢の意識を美紗緒の夢の中に導い
たのであった。そして、一晩中、その術を掛け続けていたのであった。

「まあ、本来なら、あたしが女王様になったで2人にお礼を言うつもりだったんだけど、
  今回のは前祝いという形にしとくか。あいつも文句こそは言うけど、一度もあたしの
  命令に逆らっていないから、  ご褒美って奴ねっ!」

普段、ねぎらいの言葉なんて言わない裸魅亜がそうつぶやいていた。それは己の素直な
思いであった。そんな思いだからこそ、一晩中、魔法を維持するために部屋にこもって
いたのだ。魔法の維持するための儀式を終えた直後、一気に睡魔が彼女を襲ったのであ
ったため、余計な事=“欲望”は考えられなかったというせいもあったのだが・・・

「留魅耶ぁ~~!  起きてる?」

「はいはい、なにかよう?  姉さん」

裸魅亜の呼び声に、着替えていた留魅耶は着替えを急いで、裸魅亜のもとへと駆けつけ
た。そしたら、目にクマができていた裸魅亜が眠たそうな顔をしていた。彼女はそんな
眠たい眼をこすり付けてその場に寝ない様にして

「留魅耶、あたしは昨日、サミーをやっつける作戦を考えてついつい徹夜してしまっ
  たから、これから寝るわね。だから、あたしが起きるまでに部屋片づけといてね!」

「わかったよ。姉さん、そしてそれ以外でやる事はないの?」

「そうね。騒がしくなるから、あとは自由にしていいから! 
                                  とりあえず夕方までは寝るつもりだからねっ!」

「はいっ?」

留魅耶はあっけをとられた顔をした。いつもだったらサミーを倒すための研究をさせ
たり、体力強化特訓をさせられたりして、暇という暇がないというのに、今日に限っ
ては片づけ以外はなしと言うのだ。なんだか、なにか裏があると思って、彼は恐る恐
る訪ねてみた・・・

「ねっ、ねえさん、本当にそれだけでいいの?  
               いつもだったらサミーを倒すための研究をしろっているのに・・・」

「だぁ~まれっ!  あたしがしなくていいって言ったら、いいのよ!  
                                 つべこべ言うと焼き鳥にして食ってやるぞっ!」

「はぁ~~~いっ!!」

留魅耶は裸魅亜に、今までは最高の笑顔を見せて、大きな声でそう答えた!  返事が
終わったと思ったら、スタコラサッサと部屋の片付けを始めたのであった。裸魅亜も
そんな嬉しい表情の留魅耶を見るのは実に久しぶりで、満足げに自分の部屋へと戻り、
そのまま寝てしまった。深い、深い、それは深い眠りだった・・・

  ちらかった部屋を迅速に片づけた留魅耶は、すぐに鳥になって、早速地球へと降り
たったのであった。美紗緒の顔を見たくなったからだ。それと本当に夕べ見たものが
夢なのかどうかを確認するために・・・

  

  地球、その時間は丁度、夕方であり、その日はたまたま塾がない日だったので、美
紗緒は珍しく学校から、まっすぐ家に帰ってきていた。いつもの場所で待ち構えてい
る留魅耶を見つけた美紗緒は、いつものように声をかけてきた。

「鳥さん、いらっしゃい。もしよかったら、あたしの側にきてくれない?」

ばさばさばさ・・・・・  留魅耶は美紗緒の側へと近づいた。そしたら、美紗緒は自
分の側の地面に着地した留魅耶を捕まえて、顔を近づけた。留魅耶は彼女のそんない
きなりの行動にただ驚いてばかりであった。そして・・・

「鳥さん、ううん  ルー君。昨日はありがとう・・・」

といって、美紗緒は留魅耶のオデコにキスをしたのであった。思わぬ出来事に彼は今
日、今までの人生の中で最良の日だと実感した。

「あなたが、昨日夢で人の姿になって現われて、あたしを励ましてくれたの。変だよ
  ね、あたし。あなたは鳥なのに、鳥の姿をしているのに、実は悪い魔法使いによっ
  て、そんな姿になってしまった王子様なんて思って・・・  そんな王子様の魔法を
  とくためにはキスしかないと・・・  やだっ、あたし、なに言ってるんだろう!」

美紗緒はちょっと照れた顔をして留魅耶を見詰めていた。留魅耶はそんな美紗緒の言
葉をきいて、あれはただの夢ではなかったことを悟ったのであった。そして、一つの
決心をしたのであった。自分は美紗緒の本当の“王子様”になるんだと・・・

「あっ、そろそろ砂沙美ちゃんが遊びに来るから、またね。ルー君!!」

美紗緒は、捕まえた留魅耶を解き放った。自由になった留魅耶は美紗緒の家を大きな
円をえがくように周って、そして帰路に就いたのであった。そして、そんな留魅耶を
見えなくなるまで見送りつづける美紗緒がそこにいた。朝、布団にあった留魅耶の羽
を手に持って・・・・

『今のままじゃあ、美紗緒のいう“王子様”なんてものには程遠い。
  もっと魔法を修行して、君の“王子様”にふさわしいおとこになってやるんだ!!』


留魅耶はそんな誓いを自分が飛んでいる横で輝く夕日に誓ったのであった。そして、
今度こそ夢でなく、現実に彼女の前で自分本来の姿になって、想いを告白する日を夢
見て羽ばたき始めたのであった・・・・・

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